昭和の本気度 | 不思議旅行案内 長吉秀夫

昭和の本気度

先日、父とともに野尻湖にある山荘へ行った。諸用があったため、珍しく父に同行したのだが、こんなことは数十年ぶりのことである。たまには親孝行もいいか、との思いで同行した。若い頃は父に反発ばかりしていたのだが、この歳になるとどうも僕は父に似ているようだと思うようになった。
山荘に着くと、僕は読めていなかった本をずっと読んでおり、父は窓際の小机でずっと書き物をしている。口を開くと、昔のように言い合いになってしまうような気がして、僕は黙って本を読み続けていた。やがてあたりが暗くなり、山荘に明かりを点けて再び本を読み始めた僕に、「無駄な明かりは消しなさい」と、父は書き物から顔も上げずに言った。昔ならば、ここで減らず口の一つも叩いたよな、と思いながらも、スイッチを消してテーブルへ戻った僕は、再び本を読み続けた。
夕闇の林の間から、ひぐらしの声が聞こえていた。


先週末に、ある会合に参加した。
「スカットクラブ」という名のその会合は、新しいトランプゲーム「スカット」を楽しむサークルだ。
お誘い下さったのは、大学の先輩である小柴先輩である。小柴先輩は明治大学のOB会である『紫紺クラブ』の名誉会長でもある。先輩といっても、僕よりもずっと以前に大学を卒業された大先輩である。以前にこのブログでも紹介した『風になった伝書猫』の著者である田村元ちゃんに紹介された縁で、今回、この会合に参加したというわけだ。スカットは小柴会長が考案したトランプゲームで、「大貧民」をシンプルにしたようなゲームだ。ルールは大貧民ににているが、しかし、その志しはそれとは真逆で、徹底的に弱者を救済するための心遣いが施されている。大貧民をやった方はご存知だろうが、あのゲームは富豪になったものが徹底的に貧民にプレッシャーをかけ続けるゲームである。貧民続きの時の悔しさたるや、ひどいものである。お孫さんたちとの大貧民で、その悔しさや理不尽さに疑問を感じたのだろうか、小柴会長の考案したスカットには、先に述べたように、徹底的な弱者救済の精神が流れている。はじめは、たかがトランプとたかをくくっていたが、始めてみるとすぐに熱中してしまった。しかし、結果は惨敗。いくら弱者救済のゲームでも勝負である。諸先輩方は容赦ない。女性の先輩に6連敗を喫してしまった!聞くと、彼女は小柴先輩とともにスカットを考案した方で、女流作家の山崎厚子女史だというではないか。強いはずだ。
秋瑾 火焔の女(ひと)/山崎 厚子

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             不思議旅行案内 長吉秀夫-スカット
         
いつもはあまり接することの無い年齢層のみなさんと、数時間ではあるが本気でトランプゲームをして、改めて感じたことがある。それは、彼らはいつも熱い思いを持っているということだ。
「よく学び、よく遊べ」とは、僕らも子供のころに言われ続けてきたことばだ。しかし、僕は自分の子供たちに同じことを言い続けてきただろうか?
昭和の先輩たちの中にある本気度を垣間見て僕は、親たちに言われてきた言葉の大切さを少しずつ感じるようになってきたことに気付いた。