海民の末裔 | 不思議旅行案内 長吉秀夫

海民の末裔

 海流を利用して移動してきた民は、もちろん忌部氏だけではなかった。日本の縄文人たちはアリューシャン列島やアラスカ沖を越えて、北米から南米まで移動していた。その証として、例えば日本で採掘された黒曜石の矢じりが北米で発見されたり、南米のシカン帝国の黄金文化の一部が日本の東北の縄文文化と酷似していたという話もある。

氷河期に現在のマレーシア付近に存在したスンダランドと呼ばれる陸地が、紀元前12000年から紀元前4000年くらいの間に起こった海面上昇によって消滅し、そのときに脱出した人々が、太平洋の多くの島々へ船で漕ぎ出し、その末裔が現在のミクロネシアやポリネシアの人々だということが言語学的にもわかっているそうだ。それらの人々の一部は、黒潮に乗り、八重山諸島や奄美、小笠原、そして九州の霧島から上陸し、日本の森の中を北上していったのではないかと言われている。

世界の洪水神話や古代日本の神代の話のベースには、このような出来事も影響しているのだろう。

 ところで、ミクロネシアのマーシャル諸島はアメリカが水爆実験を行い、その後60回以上も原爆実験を繰り返している。最近では弾道ミサイルの迎撃実験の場所として使われ、島の人々は辛い人生を強いられているようだ。

フランスも南太平洋で原爆実験を行い、南の楽園と彼らが呼ぶタヒチなどでも現地の人々への待遇が問題になっているようだ。

 欧米世界では、太平洋は大航海時代に彼らが「発見」した地域であり、ただただ大きな海原があるだけと考えているが、南太平洋の人々の感覚は違う。ポリネシアやミクロネシアの人々は、古代から太平洋をひとつの海洋国家と考えているのだ。

 そんな話をツバルの人たちに聞いたとき僕は、今までとはまったく違う地球のイメージを思い浮かべた。

そして、日本もその中のひとつなんだということに気づいたとき、大きな繋がりの中にいることへの安堵を感じた。